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フィジカルな指導をロジカルに!「ワイングラス割り」500万の男の正体とは?

「音楽って楽しい」を再認識してもらいたい。四国のとあるボイストレーナーに迫る。

著者:MuseMate編集部  2023/05/24  無料

——ボイストレーナーはただ歌唱指導をするだけでなく、生徒の喉の状態や発声の仕組みを理解し導く仕事でもある。今回は、声を発するための筋肉を研究し、四国を拠点に活躍している竹井侑冶さんへの取材を敢行した。

歌は得意どころかむしろ苦手。そんな人間がボイストレーナーを始めるまで

MuseMate編集部(以下、MM):本日はよろしくお願いします。初めに簡単な自己紹介をお願いします。

竹井:徳島でボイストレーナーとして活動したり、たまにライブしたりしてます、竹井侑冶(たけいゆうや)です。基本はポップスを教えてます。声でワイングラスを割れるということで、一応YouTubeの方もバズって、おかげさまで500万再生も超えて、そういう高音の発声とかが得意かなって感じです。

MM:ご経歴も簡単にお聞きしたいのですが、歌の活動はいつごろ始められたのですか?

竹井:僕は音楽歴がちょっと特殊というか、小さい頃にピアノを1年くらいやったけど嫌いになって音楽をやめたみたいな子で。そこで、恐らく基礎はできてたのかなあと。それから音楽とはちょっと離れて、20歳くらいまで働いていました。

19歳くらいの時に「お前、家にキーボードあったよな」みたいな感じでバンドに誘われて、それが楽しくて音楽にまた触れるようになりました。その時は歌じゃなくて鍵盤だけで、キーボード担当、特にシンセサイザー奏者として音楽を再開しました。

そこから色々あるんですけど、歌が始まるのは26歳からです。それまでは、歌はむしろ苦手で。

MM:なるほど。バンド活動で音楽を再開されたのですね。

竹井:社会人になってある程度歳をとってからバンドを始めるとよくある話ですが、メンバーが集まらなかったり、スケジュール調整や人間関係が面倒臭くて、活動がスムーズにいかず……。バンドで音楽をやるんだったら自分で歌わないといけないなと思ったんです。

それとちょうど同時期の26歳くらいの頃、「音楽をみんなでやろう」みたいなアマチュア団体にも所属していました。そこで「みんなで歌を頑張りたいね」ということになりました。僕が「じゃあ勉強しながらみんなに教えるよ」という感じで、それが本格的な勉強の始まりでもあります。

歌が上手くて教えているというよりは、僕が先陣切って勉強するので、みんなも勉強しようという感覚で、トレーナーを始めました。ちょっと入り口が特殊なんですよね。

MM:なるほど。そうすると、ボイストレーナーとしての活動とボーカリストとしての活動が、ほぼ同時期に始まっているということですね。

竹井:そうなんですよ。レアな感じで。

MM:元々歌は得意じゃなかったと仰いましたが、具体的な苦手意識があった感じでしょうか?

竹井:もうめちゃくちゃありました。高校生くらいまでは、カラオケでも人前では歌わないみたいな。みんなでカラオケに行っても一人だけ絶対歌わないやつみたいな、あれです(笑)

MM:なぜか来るは来るんですけどね(笑)

竹井:そうです。一応行くんだけど(笑)

MM:高音が得意だというのは、歌の活動を始めてすぐ気がついたのですか?

竹井:そうですね。もともと地声も高いので、今思えば、喉の構造的にも有利だったのかなと。高音が出なくて困るというようなことはなく、練習し始めてすぐくらいから高い声はすらすら出ました。

こんなこと言うと凄みが落ちちゃうんですけど、ワイングラス割りも正直全然練習していないんですよ。3日くらいの練習で割れたので、僕的には「やったらみんなできるじゃん」みたいな。

再生回数500万回越え! なぜ男はワイングラス割ったのか

MM:そもそも、なぜワイングラスを割ろうと?

竹井:歌を勉強し始めた時に、音大などで使われている教科書を調べていたのですが、どうやら「フースラーメソッド(※)」というボイストレーニングがあることを知りました。

※喉を吊る筋肉を7つの音色を発声する事で鍛えてゆく練習方法。

本を買って読んでみると、ひたすら筋肉のことが書いてあるんですよね。少し難しいんですが、その本で勉強して結構頑張って、ちょっと教えられるようになったかなと思ったんですけど、自分の歌には相変わらずあまり自信がなかったんです。

「すごい声が出るんだよ」ということを、人にわかりやすく伝えるにはどうしたら良いかなと考えた結果「ワイングラスが割れたらわかりやすいかな?」と。そういう発想ですね。

MM:たしかに、視覚的にもわかりやすいですもんね。

竹井:僕には経歴とかキャリアがなく、今でこそちょっと歌がマシになったかなという感じですが、当時はコンプレックスもまだまだ強かったんです。歌でどうこうやるよりもこっちの方が早いかなと思い、「ワイングラスを割る」というチャレンジをしてみようと思いました。

MM:バズったのは5年前になるようですね。

竹井:そうですね。個人的にはもう忘れてるくらいだったんですけど。アップロードして1年ほど経ってもそんなに伸びなかったので、放ったらかしだったんです。

MM:なるほど、しばらく放置していたら急にバズったという感じなのですね。

竹井:そうですね。全然管理もしていなかったので勿体無いパターンです。

MM:500万回の再生があって、もし収益化をしていたら……

竹井:そうですね〜。昔だったら今より利率もいいですからね。実は一銭も僕には入っていないという……

楽器でないものを鳴らす声。ワイングラス割りの原理に迫る

MM:ワイングラス割りの原理的なところについても少しお聞きしたいのですが、やはり高い音だと割れるのでしょうか?

竹井:簡単に言うと、物には何にでも「振動しやすい周波数」っていうのがあるんですよ。その周波数と同じピッチで音を当て続けると、どんどん揺れてきて、揺れが大きくなると割れるという。

MM:なるほど。ワイングラスを振動させるのに適した周波数の声をひたすら当て続けると。

竹井:そうですね。グラスハープってご存知ですか? あの音です。

MM:実際に割る時は、最初に鳴らしてみて確認したりするんでしょうか?

竹井:これがなぜか大体わかるんですよね。たぶん感覚的に、微妙な声の反響で判断してるんだと思います。最初はみんなわからないので、そういうときは「デコピンとかをして残響で残る音だよ」教えています。

MM:確かにイメージしてみるとわかりそうですね。ここがハマってるという感覚。

竹井:そうです。楽器と一緒で、例えばギターだとスイートスポットとかあるじゃないですか。「この感じが綺麗に鳴る」というような感覚的な面はすごく大切というか、むしろ考えてたら絶対割れないですよ。本当にすごく微妙な、0.1セント以内くらいで持続しないといけないので、頭で考えてたら絶対に声が揺れてしまうわけです。だから「響く感じ」を感覚的に維持するのが大切ですね。

MM:動画ではストローをグラスに入れていましたが、これにはどういった効果があるのでしょうか?

竹井:ああ、あれは視覚的に音が揺れているというのをわかりやすくするための演出です。途中でどこかに飛んでいったけど、全然気にしてないですしね。逆に見てたら気が散るんで、僕としては本当は無い方がやりやすいんですけど(笑) 動画上ちょっと映えるかなと思い、ストローを使ってみました。

独学の情報源。調べて、考えて、仲間と一緒にトライ&エラー

MM:音大などには通っていないとのことでしたが、勉強は何から始めたのでしょうか?

竹井:まずはネットで調べました。ただ、これは皆さん経験があると思うんですけど ネットの情報ってふわっとしてたりとか、この人とこの人で言ってることが違うぞみたいなのがいっぱいあって。

「じゃあ根拠って何なの?」と思い調べる中で、ひとまず発声っていうのは「運動」なんだなということは理解できたんです。要は歌うときには筋肉が動いてるぞ、これは大切そうだと。それで、筋肉の勉強にどんどん入っていきました。

MM:なるほど。調べて考える、というのが中心なのですね。

竹井:そうですね。特に誰かに師事するということもなく、まずは本を読もうかなと思ったんです。それでフースラーの「歌うこと」という本を買ったんですけど、何せ難解なんですよね……。

めちゃくちゃ難しいし読みにくいけど、これはちゃんと理解しなきゃいけないなと思って。そこからは仲間と一緒に読んだり、みんなで実践したりしながら「わかる?」「わからん」というような感じで、本を軸にトライ&エラーしながら勉強していきました。

フィジカルな指導をロジカルに。知識を得たからこそ伝えたい「大切なこと」

MM:歌をどう歌うかということ以上に、体のことや筋肉のことに重きを置かれている印象です。そこに何かこだわりがあればぜひ教えてください。

竹井:ボイストレーニングのやり方っておそらく、多くの人は「リピートアフターミー、私の真似をしてください」というのを繰り返していることがほとんどだと思うんです。でもこれって、やっぱり合う合わないがめちゃくちゃあるんですよね。

あまり一般的な話じゃないんですけど、喉の軟骨の形状は人によってタイプが違って、パターンがあるんです。骨の構造上こういう声が出しやすい人、出しにくい人っているんですけど、先生とパターンが違う時っておそらく真似をしにくいはずなんですよ。

人体の構造を知らないと、生徒さんの体に何が起こっているのか分かってあげられない面があるので。「この動きが制限されているということは、ここが弱いのかな」ということを考える必要があるんです。筋肉について知らないと感覚でしか話ができないので、肌感ですが、10人の生徒さんうち教えられることができるのは2、3人だけということになっちゃうんですよね。理屈なしに一緒に歌おうというやり方だけで「わかります!」となる人は少数です。

歌を教えるということは、生徒さんの体に関係することなので。だから実際にレッスンをしていく中で、筋肉のことを勉強する必要性は強く感じますね。

MM:ワイングラスのときのお話のように感覚を大事にされている面もありつつ、人に教える時は人体の構造を知った上でロジカルな指導が必要ですもんね。バランスが取れているなと思いました。

竹井:ありがとうございます。僕としては、歌が上手になりたくてボイトレに興味を持ち、レッスンを受けたりしている人たちに、やっぱり歌を楽しんで欲しいというのを強調したいですね。

どう言ったらいいか難しいですが……例えば、歌を良くしていく時に周りと比べないで欲しいんですよね。自分が中心なんですよ、やっぱり。

大切なのは自分がどうしていきたいかだし、今の自分が過去の自分からどう変われたかが重要なので、もし何かと比べるのであればそこを主にして欲しいんです。これは歌う人だけでなく、音楽をしている人みんなに言いたいことです。周りと比べてへこんだり、練習の苦しみだけを積み重ねちゃう人ってやっぱり結構います。「音楽って楽しい」「生きることの一部だよ」というのを伝えたいです。

MM:小難しいことも、あくまで楽しいから、自発的に必要だと思ったからやってるのであって、それを忘れてしまうとただ苦し違だけになってしまいますもんね。ありがとうございます。

今後の竹井さんの活動をチェック!

MM:今後のご活動もぜひ応援させていただきたいのですが、何かお知らせできるものはありますか?

竹井:現在「TVW テンセグラルボイスワーク」という研究会にも所属しています。今回お話したような、筋肉や体のつながりに着目して歌をみていこうという会で、ボイストレーナーや医療関係者など、みんなで考えたりツッコミを入れたりしています。 現在はこちらをメインで活動しています。

あとは「歌スク」というリトーミュージックさんがやっているオンラインでヴォーカル・レッスンが受けられるサービスがあるのですが、そこで講師もやっています。

LINEでは無料の相談も受け付けていて、体験レッスンもしています。それから現在スタジオを作っていまして、スタジオができたらそこを中心にYouTubeでの配信や動画の投稿をしていこうと考えています。 スタジオの完成が6〜7月の予定なので、夏頃には動く予定です。

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専門的な知識と経験をもつ竹井さん。それでいて、音楽を楽しむことを第一とする姿勢が印象的なインタビューとなった。気になった方はぜひコンタクトをとってみて欲しい。
竹井侑冶さんTwitterはこちら!

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