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【作曲家対談】やりたい音楽を仕事にするために

ブロードウェイで活躍する作曲家Ko Tanakaさんを、現代音楽作曲家のよしたく先生が直撃

著者:MuseMate編集部  2022/10/16  無料会員

――ミュージカルの本場、アメリカのブロードウェイを拠点に活躍しているKo Tanakaさん。同じく作曲家で現代音楽を研究する傍ら、小学校の校歌や自治体への楽曲提供、最近では大手ゲーム実況者への楽曲提供など多岐にわたる活動をしているよしたく先生(※小学校の音楽の先生でもある)による対談です。

ひとことで「作曲」と言ってもその形態は多種多様で……

よしたく先生:一般的に、「じゃあ作曲やるぞ」となったら普通は「歌詞作ってみようかな」「メロディ作ってみようかな」「コードあてがってみようかな」「ハーモニーパートどう割り振ろうかな」「ベース作ろうかな」ってのをやると思うんですけど、実際Koさんがやっている作曲はどこからどこまでを含んでいるのかお聞きしたくて。

Koさん:最近の仕事の大半は、イメージしやすい形で言うと「ピアノ譜」まで。2本の五線紙にワンモアエクストラ(もう一つ)まで。メロディラインとそれに付随するコード、ベース、その伴奏系が「パッパ」なのか「ザーンっ」なのか、そこまでですね。で、オーケストレーターの人がついてくれることが最近は多い。もちろん自分でやらないといけないことは多いんですけど、最近の僕の仕事はそこまでですね。

よしたく先生:オーケストレーターの人にお願いするにあたって、楽器の指定をするしないはどんな感じなのですか?

Koさん:するときもあるし、しないときもあります。重要なコンセプトとして、オーケストレーターの人は僕の下請けではなくて「同じ対等な立場としてのコラボレーター」なので、彼ら自身のサウンドや意見も尊重します。思ってもなかったカラーを入れてもらうこともあるし、ここの音は目立たなくていいんだけどなとか、ここはもっと目立って欲しいんだよねということもありますね。

よしたく先生:僕がイメージするオーケストレーションって、ピアノ譜からオーケストラの楽器、楽譜にすることなんですけども、Koさんの場合もそのようにオーケストレーションされるんですか?

Koさん:しますね。だからこそ伴奏系を指定するところまでは結構重要な役割というか。白たまでばーっと書いてあってもわからないですし、作曲をピアノでしてる時点でグルーヴが決まってくるので、そこは(ピアノ譜にする際に)僕のやらなきゃいけないことですね。アメリカだと特に、ここは作曲家が決めないとわかんないよという要素は僕がやって、ここから先はやれるよという要素はオーケストレーターの方にやってもらうという感じですね。

よしたく先生:なるほど。それこそリズムはちゃんと決めておいて欲しいけど、ドミソの配分とかまでは決めなくていいよみたいな。

Koさん:片手で弾ける形であればそれをエクステンドしてもらうし、途中でなんらかの理由でキーが変わったりするとヴォイシングまで考え直してもらうので、そこはもうそんなに細かくはやらないですね。裏メロとかも追加してもらえることもあります。

よしたく先生:ブロードウェイってあんまり詳しくないんですけど、本番は生演奏ですよね。「生演奏できる楽器であれば何にでもオーケストレーションできる」ってことになるんですか? 使える楽器はある程度決まってる?

Koさん:それが難しいところで、劇場のオーケストラピットってめちゃくちゃ狭いんですよ。ホーンセクションとはいってもトランペット一本と、サックスを持ち替える人が一本とか、そういう感じなんですよね。だからめちゃくちゃ制限のある手数の少ない状態でオーケストレーションしないといけない。となると何でもかんでも入れられる訳ではなくて。ある程度はキーボードとかで補ったりできるんですけど、かなりサーカスみたいな、曲乗り的な技法を使ってオーケストレーションしてることも多いですね。

よしたく先生:僕の関心の向くところは前衛的な音楽や現代音楽だったりするんですけれども、その中でも特殊奏法って、一つの楽器の音色を拡張するために使うということがよくあるんです。楽器数が少ない中でとなると、ブロードウェイでも特殊奏法は使われるんですか?

Koさん:使われます使われます。もうありとあらゆる音を全部使ってます。というのも、普通の音楽ではありえないような音も求められるんですよね。例えばステージの上で爆発のようなことが起こるとか、ショッキングなこと、フラッシュなどが起こる時には、それなりの音をなんとかして出さないといけない。効果音で作ってポンっと出すというのもできるんですけど、トラディショナルなやり方ではいろんな楽器のいろんな音、特殊奏法、ヤバめのやつを使って表現することはめっちゃありますね。それも全てストーリーとキャラクターを表現するためにあって、作曲中はキャラクターのことを考えている時間が圧倒的に長いです。

よしたく先生:現代音楽で特殊奏法を扱うときって、とても抽象的な音を使い方をするというか、精神世界を描きたいためにこの音を使いました、ということが多いんですけれども。アプローチの仕方が全然違うと思って。お聞きしたものだと、具体的なものとか想像できるストーリーがあってそれを実現するためにどう音を用意できるかっていうアプローチ。しかも楽器が限られている中でやらないといけないのは現代音楽とは真逆ですごく面白いと思いました。

現代音楽はなんか、「突っ込めばいいや!」みたいな感じなので、チェロ一人の曲で、ホイッスルがそこで欲しかったらチェロの人にホイッスルも吹かせるみたいな。無理矢理どこまででも突っ込もうとするところがありますね。

Koさん:そこがまだミュージカルはストーリーやキャラクターがあるので、とっかかりやすい仕様がありますね。シーンによって悲しかったり楽しかったり。キャラクターがちゃんと生きていて考えているからからそういう気持ちになっているのであって、それを考えた結果、「特殊奏法を使う」と。意外とオーガニックなところから考えていますね。

作曲と切っても切り離せない「作詞」の話

MuseMateスタッフ:よしたく先生、この前Twitterで「作詞のやり方教えて……」って嘆いてましたね。

よしたく先生:そう! 作詞できないんですよ(笑) 商業音楽を作ってる知り合いには「似たような言葉を10個くらい並べてそこからピックアップして世界観を作れ」って言われたんですけども、Koさんはどういうふうに考えてるかお聞きしたくて。

Koさん:前提としてポップスとミュージカルで違うところがありますね。ポップスの作詞は割とどこを切り取っても、とある一定の感情が欲しいことが多いと思うんですよ。でもミュージカルの作詞は最初に抱いた感情と最後に抱く感情が全然違ったりする。

例えば、何かに怯えている。途中でその話をしているんだけど最終的に決意に変わるとか。最初は嘘ばっかり言ってるんだけど最後にちょこっと本音を言って、また嘘を言うとか。そういった人間模様が面白いんですよね。僕が作詞するときは漫画家さんみたいに”箱書き”して、起承転結があって、最終的にこういう気持ちで終わるってのを作ります。その箱書きに対してテクを使うんですけど、アメリカのリリックライティングで言われる有名なやつがあって、

・何かを説明する前に見せておく

・ビビットなイメージを色、五感で見せる

とかいろいろあるんですけど、そういう小手先のテクニックを使って「どうすれば一行目で注意を引いて」「それがなんだったか解って」「変化していって」「落ち着くか」をまず組む。その時点で僕は作曲が始まっていて、メロディや曲調はわかんなくても作詞の箱書きの時点でやるべきことが出来つつある感じですね。

よしたく先生:心情を変えることは言葉だけでやればいいものではないですもんね。ニュアンスとか身振り手振りでもやってくってことですもんね。

Koさん:そうですそうです、言葉は全然違うこと言えるんですよ。悲しいって言いながら悲しい動作や悲しい音楽が流れるってのは簡単なんですけど、「悲しくなんかない」って言いながら悲しい音楽が流れるとかそう言う組み合わせもできる。僕が常々言ってるのは、僕らは「たまたま音楽を使う紙芝居屋さん」だと思っていて、曲作りも脚本家的な発想から入る。だからこそ脚本術とか時間軸が変わる映画とかアニメ、漫画などのコンテンツはより僕の世界に近い。だから変な話、音楽を聴いてあんまり嫉妬することってないんですけど、めちゃくちゃよく出来た漫画とかを見るとめちゃくちゃ嫉妬する。このページなんでこんなに面白いんだろって。そういう音楽を僕はやりたいと思ってます。

本当は漫画家になりたかった? ”ミュージカル作曲”を志した理由とは

よしたく先生:これも聞きたかったんですけれども、Koさんのキャリアやなぜミュージカルにいったのか、キッカケとか、日本での活動なども聞きたくて。

Koさん:僕は日本の専門学校で4年間勉強して、その後3年くらい会社員クリエイターとして商業音楽を作っていたんですけど、常々なんか違うなと思っていたんですよ。もっとディープな感情を表現する音楽をやりたいって。そのときはあまり世の中のコンテンツを知らなくて、例えて言うならディズニーの映画みたいなものをやりたいって感じでしかなかったです。

自分のタチ、性質としていわゆるディズニーとか、古き良き”Over The Rainbow”みたいな「ミュージカルからやってきた綺麗なメロディの曲」と僕はすごく「タチが合う」んですよ。こういうの作りたいと。

たくさん見聞きする中で2014年のディズニー映画”Into The Woods”というのがあって、今は亡きブロードウェイの大巨匠・スティーヴン・ソンドハイム(Stephen Sondheim)という人の曲というか、その人が書いたミュージカルなんですけどもうとんでもない文学性があってすごいんですよ。

スコアを見るともっともっとすごくて、名前のつけようのない和音とか、二人夫婦のキャラクターがいて、この二人は後々お互いに裏切りがあるキャラクターで、「私たちはずっと一緒」って歌詞の『ずっと』の部分だけ不協和音になるとか。僕はもうオタクなのでアナライズし始めると「こんな考えて作られてるんだ」って。圧倒的だったんですよ、職人芸というか。そんなこんなで、これやるならアメリカだろということでアメリカ行っちゃったてことです。

よしたく先生:いざアメリカ行って「トントン、ぼくブロードウェイやりたいんですけど!」はさすがに無理ですよね?(笑)

Koさん:まあ無理ですよね(笑) それで僕はいろんな人の話を聞いたり、コミュニケーションの取り方、英語などを勉強する中でこれは学校に行かないとダメだなという結論になって、バークリーを受験して奨学金をもらって。結果いま、卒業して活動しているという経緯です。

今やっている仕事は大きく2種類あります。ひとつはブロードウェイでエレクトリック・サウンド・デザインをやってるプロダクションがあって、そこのチームのアソシエイトとしブロードウェイの作品の作り方、サウンドの作り方を学びながら手伝っている。

もう一つはこれは割と草の根活動なんですけど、現地の若いミュージカル作家の輪の中に混じって、コソコソと面白そうなストーリーやコンテンツを日々作ってるという感じ。

ニューヨークはそういう人たちに対して理解があるのと、投資家さんたちも比較的見つけやすいので、もし本当に面白い作品だったらサポートを受けやすいんです。日本でいうと、週刊連載が突然できるわけじゃないけど読み切りから試すみたいな。その前は担当さんとネームを、みたいなね。そういった小さなところからスタートしていって、オフブロードウェイとかオンブロードウェイとかを目指していくんです。

よしたく先生:漫画の例えが出ましたね。

Koさん:そう! 僕は実は漫画家になりたかったのかもしれない。漫画家になるなら絶対日本なんですよ。その国の不満とかが出やすいメディアというのがあって、日本なら漫画アニメ、アメリカの場合は「演劇」なんですよ。だからそこに深みがあると思ってます。

プロとして求められる”クオリティ”に対する考え方

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